黒いスイス

黒いスイス (新潮新書)

黒いスイス (新潮新書)

久々にレビューを。


誰からも好かれる世界の優等生、スイス。
しかしその内実は…という本。
自分の新書デビューの本でした。
タイトルやあらすじ、目次で煽る割には
そんなに「驚愕の事実」はなかったというのが正直な感想。
まぁ、スイスもサヨがわめくような平和な世界構築を目指す
優等生ではなく普通の国でした、というオチ。
Amazonのレビューもこの辺の見解はどの方も一緒のようです。
第一章のロマ(ジプシー)迫害の話は「黒いスイス」の
題にふさわしく、スイスの黒い面を抉り出すエピソードでしたが、
残りの話は「黒い」と言うほどのものでは無かったかなというのが正直な感想。
ナチスに与したと言うものの、それは
ユダヤ人差別ではなくスイス国内の混乱を避けるのが目的でしたし、
核兵器開発計画も、文中のモーゼル教授の

「戦後しばらくの間、原爆は第一次大戦で登場した戦車や飛行機と同様、
戦争に有利な『新兵器』としか考えられておらず、放射能の危険性や
人類滅亡の恐怖などは、全く考えられていなかった。スイスが
戦後すぐに核兵器を考えたことは、今ではショッキングだが、
当時は、第一次大戦後、各国が競って航空力を配備したのと同様の
競争意識しかなかった」

という発言が全てでしょう。今も計画が続いているならともかく、
87年に計画は断念されます。


移民が増えるにしたがって起きる人種間問題や
極右政治家の台頭は欧州全域に見られる傾向であり、
これをもってスイスを「黒い」とするならば
欧州そのものが「黒い」ことになってしまう。


やはり、全体的に見て名前負けの感が強いように感じました。
それでも、書いてあることはいずれも興味深いことばかりで、
スイスの成り立ちからマネーロンダリングのからくりまで、
これを一冊読めば、スイスに関してのある程度の知識は
得られるという点では一読に値する良著。
読んでみて、決して損は無い本ということに間違いはないと思います。